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安部公房伝(あべねり著) [読んでみたい本]

今、石川淳全集を通読している。

当方が石川淳の名をはじめて目にしたのは、阿部公房の短編集『壁』に添えられた文章を読んだときだ。その序文もすばらしかったが、作品集もまた堂々たる序文にふさわしい内容のものだった。

以下は翻訳家鴻巣友希子氏による書評全文。

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最近「世界文学」というゲーテ創案の言葉が文学論議の中でよく引き合いに出されるが、その定義からすると、現代日本文学において初めて世界文学作家となりえたのは、安部公房ではないか。

本書は、作家の一人娘による評伝である。伝記の部分と、主に言語論を下敷きにした作家・作品・文体論、公房を知る25人に対するインタビュー、そして豊富な写真資料から成る。著者の言葉は長い思考を経たものだろう、結晶のように硬質で、貴重なエピソードが淡々とつづられている。

満州から引き揚げ、画家との結婚、趣味だった車やシンセサイザーのこと、石川淳、三島由紀夫とのつきあい・・・。インタビューでは、大江健三郎の口から、ガルシア・マルケスやル・クレジオが公房をどれだけ評価していたかが語られ、その一方、書き損じの原稿が丸められた後どうなったかといった日常的な逸話が、ドナルド・キーンによって明かされたりする。

ある時、公房は娘に尋ねたという。「ねり、手って何か特別な感じがしないか」「たとえば道に、手が落ちているとするだろう。そうしたら、とてもびっくりするじゃないか」。それなら足首が落ちていたってびっくりするし、と娘は「非科学的な」父の話にがっかりする、しかし公房が話を「脱線」させるのは、その表現活動とも本質的な関係があったのだと後に思い返す。

また、公房の創作の重要な礎の一つとして、クレオール言語論をあげ、「文学という実験室」で読者を言語の迷宮に案内した公房は、「意味から直接発生した言語」とされるクレオールにむしろ希望を見いだしたのだろう、と思いめぐらす。

著者は「読者となって初めて父の声を聞く」と言い、「(公房の)作品自体が人間科学だった」と気づく。子による「父」なる存在の読み直しという行為は、時間と思索に濾され、一人の作家の再解釈へと読者を誘うのである。

著者:あべ・ねり 1954年東京都生まれ、医師。「安部公房全集」の編集に携わる。

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書評中、石川淳や三島由紀夫の名があげられている。

徳岡孝夫氏は三島由紀夫の評伝「五衰の人」のなかで「(三島の自決後)溢れるように出た三島論の中で、私見によれば最も説得力のあったのは石川淳氏の文である(p274)」と記している。

三島は、「昭和の文人」と室生犀星が評した25歳年長の石川淳をたいへん尊敬していたようである。

三島は古林尚との対談のなかで「大げさな話ですが、日本語を知っている人間は、おれのゼネレーションでおしまいだらうと思ふんです。日本の古典のことばが体に入ってゐる人間といふのは、もうこれから出てこないでせうね。」と言っている。

フランス語の翻訳もこなし、江戸戯作にも通じ和漢洋に通暁していたと思われる石川淳が、序文をしるして祝福した「現代日本文学において初めて世界文学作家となりえた」と目される安部公房の評伝である。

安部公房は大正13年生まれ、三島より1年年長であるから、三島と同じ「ゼネレーション」と言っていいだろう。

しかし、同じゼネレーションでありながら作品世界はおおきく異なる。

それを繫ぐ役割を石川淳が持つのだろうか?
安部公房伝

安部公房伝

  • 作者: 安部 ねり
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2011/03
  • メディア: 単行本



五衰の人―三島由紀夫私記

五衰の人―三島由紀夫私記

  • 作者: 徳岡 孝夫
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 1996/11
  • メディア: ハードカバー



壁 (新潮文庫)

壁 (新潮文庫)

  • 作者: 安部 公房
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1969/05
  • メディア: 文庫



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