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『夫・車谷長吉』 高橋順子著 文藝春秋 [本・書評]


夫・車谷長吉

夫・車谷長吉

  • 作者: 高橋 順子
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2017/05/12
  • メディア: 単行本



車谷長吉の作品をいちど読んだことがある。間もなく店を閉めるというデパートの書籍売り場でのことだ。『 赤目四十八瀧心中未遂 』の書き出しを見て、これはたいした才能だと思った。

すごい作品には、その世界に引きずり込む力がある。冒頭から立ちこめ醸しだされるモノがあって逆らえないほどになる。

それほどのモノを感じたが、それきりでよした。そして、それ以来、一作も読んでいない。それでも車谷長吉の名は忘れずにいた。のちに、NHK教育テレビの白洲正子の追悼番組かなにかで、女性歌人の某と一緒に出ているのを見て当人を知る。坊主頭の板前のような男だった。

その男について書いた本が、上記書籍だ。作者は妻・高橋順子。大岡信と一緒に日本の詩人を代表するかのように海外に出かける人だ。東大の仏文をでている。

東大出の現代詩人と泥臭い小説家の組み合わせは不思議である。読みはじめて、思いに浮かんだイメージは「掃き溜めに鶴」。もちろん、車谷がハキダメで、妻の高橋さんがツルだ。

その異類婚姻譚ともいうべき作品が本書である。高嶺の花に憧れているなら、あきらめる前に一度よんでおくといい。蓮の花も、掃き溜めのドロに落ちてくることもありうることを知ることができる。

思うに、高橋さんが居なければ、 『塩壷の匙 』も『赤目・・』も上梓できなかったのではないか。構想のままで終わってしまうということもあったのではないか。ちょうど、森敦が名伯楽として多くを文壇に送り出しながら、自らはながらく書けずにいたのを、のちに養女となった森富子の助けで『月山』を産み出せたのとおなじようにである。

ある時、長吉は妻の順子さんに憎まれ口をたたく。「わたしは生命と引き換えに小説を書いている。あなたの書いている書評なんかは三日の生命だ。頭のいい人が上手にまとめてる。それだけだ」。

実際、長吉は「生命と引き換えに小説を書いてい」た。むかし話しの『鶴女房』が自分の羽をむしって、機をおるように。その現場、本来であれば覗いてはいけないモノが、長吉の「狂気」であり、「脅迫神経症」であったにちがいない。

覗き見られた鶴女房は、夫の元を去るが、長吉はずっと妻の元に留まる。妻もまた、「この世のみちづれ」として夫の世話を焼く。

長吉の印象はキタナイ。まるで。黒澤映画『醉いどれ天使』の最後のような最期を遂げる。生イカをノドに詰まらせて死ぬ。妻はその最期を見届ける。

「掃き溜めに鶴」。掃き溜めもなければ、鶴もさまにならず絵にもならない。そのように、長吉と順子さんは、写真フィルムのネガとポジのような関係を結ぶ。それはときどき逆転もする。「この世のみちづれ」はそれぞれ、そのようにして直木賞を川端康成賞を読売文学賞を三好達治賞を受賞していく。

その織り成す絵柄をみるのが、本書の醍醐味といえるかもしれない。


「どくとるマンボウ」こと北杜夫氏の躁鬱病
http://bookend.blog.so-net.ne.jp/2007-04-30

「酔いどれ天使:黒澤明
http://bookend.blog.so-net.ne.jp/2007-02-11


高橋順子詩集 (現代詩文庫)

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  • 作者: 高橋 順子
  • 出版社/メーカー: 思潮社
  • 発売日: 2001/04
  • メディア: 単行本



森敦との対話

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  • 出版社/メーカー: 集英社
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酔いどれ天使[東宝DVD名作セレクション]

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